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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)124号 判決

東京都目黒区下目黒2丁目3番8号

原告

松下電送株式会社

同代表者代表取締役

齋藤正

同訴訟代理人弁理士

石原勝

小鍛治明

滝本智之

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

高島章

同指定代理人

橘昭成

加藤雅夫

奥村寿一

関口博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和62年審判第17102号事件について平成3年3月28日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文と同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和53年4月20日、名称を「画信号処理装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和53年特許願第47396号)をしたが、昭和62年8月3日拒絶査定を受けたので、同年9月30日審判を請求した。特許庁は、この請求を昭和62年審判第17102号事件として審理した結果、平成2年2月26日出願公告をしたが、特許異議の申立があり、平成3年3月28日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をなし、その謄本は同年5月16日原告に送達された。

二  本願発明の要旨

原稿上の画情報を固体走査し光電変換する読取手段と、この読取手段の動作時に原稿を副走査方向に移動する副走査手段と、この読取手段から読み出された画像信号を一時記憶するメモリと、このメモリへの画像信号の書込クロックを発生するクロック発生手段と、前記メモリから出力された画像信号を伝送する伝送手段と、縮小指令に従い書込クロックの周波数を減少させ所定ビットのみを前記メモリへ書き込むことにより前記メモリへの書込ビット数を前記読取手段の読み取りビット数よりも減少せしめる制御を行ない前記制御に対応させて前記副走査手段の原稿移動速度を速める制御を行なう制御手段とを具備する画信号処理装置。(別紙図面1参照)

三  審決の理由の要点

1  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

2(1)  本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭53-11601号公報(昭和53年2月2日出願公開。以下「引用例1」という。)には、原画シリンダー上に装着した原画の画情報を光電変換する走査ヘッド6と、この走査ヘッド6の動作時に走査ヘッド6を副走査方向に移動する電動機5と、この走査ヘッド6から読み出された画像信号を一時記憶するメモリ装置11と、このメモリ装置11への画像信号の書き込み及び読み出しのためのアドレス信号を発生するアドレス信号発生器10と、メモリ装置11から出力された画像信号を、D/A変換器12、出力制御回路13を介して記録ヘッド15に伝送する伝送路と、メモリ装置11の読み出しに際し、縮小率の設定に従い所要縮小率に応じて同期パルスへ挿入される割り込みパルスを発生し、同期パルスと、該割り込みパルスとをもって、アドレスを指定し、割り込みパルスによって指定されるアドレスから読み出される画像信号を間引くようにするとともに、それに対応させて前記電動機5の回転速度を制御する倍率設定装置16とを具備する倍率可変画像複製装置が記載されており(別紙図面2参照)、また、その第2頁左下欄1行ないし9行には、従来例として、「原画を光電走査して得た画像信号を、いったんメモリ装置に記憶させた後、適宜のタイミングで該メモリ装置から読み出して、記憶シリンダー上のフイルムに原画像を記録複製するもので、画像信号をメモリ装置へ書き込んだり、読み出したりする際のサンプリングパルスの間隔、すなわちサンプリングパルスの周波数の比率を、所望倍率比に設定することにより、連続的な倍率変換が可能となる。」との記載がある。

(2)  同じく特開昭52-149913号公報(昭和52年12月13日出願公開。以下「引用例2」という。)には、ファクシミリ装置において、読み取り走査部の走査方式として、主走査は、固定走査素子で行い、副走査は、原稿を移動させることにより行うことが記載されている(第2頁左上欄14行ないし17行、同頁右下欄2行ないし4行)。

(3)  同じく特開昭52-117510号公報(昭和52年10月3日出願公開。以下「引用例3」という。)には、ファクシミリ装置において、読み取り画像ビット数を間引く手段として、シフトレジスタ、すなわち、メモリへの書き込みクロックパルスの周波数を減少させることが記載されており、その第1頁右下欄7行ないし15行には、読み取り走査部の走査方式として、主走査は、固体走査手段を用い、副走査は、送信原稿を送ることにより行うことが記載されている。

(4)  同じく特開昭53-42514号公報(昭和53年4月18日出願公開。以下「引用例4」という。)には、画情報処理システムにおいて、読み取り画像ビット数を間引く手段として、メモリより成る出力部へ入力するサンプリングクロック、すなわち、メモリへの書き込みクロックパルスの周波数を減少させることが記載されている。

3  そこで、本願発明と引用例1に記載されたものとを対比すると、引用例1に記載されたものにおける「走査ヘッド6」、「電動機5」、「メモリ装置11」、「アドレス信号発生器10」、「メモリ装置11から出力された画像信号を、D/A変換器12、出力制御回路13を介して記録ヘッド15に伝送する伝送路」、及び「倍率設定装置16」は、それぞれ、本願発明における「読取手段」、「副走査手段」、「メモリ」、「クロック発生手段」、「伝送手段」、及び「制御手段」に対応していることは明らかであるので、結局、両者は、「原稿上の画情報を光電変換する読取手段と、この読取手段の動作時に副走査を行う副走査手段と、この読取手段から読み出された画像信号を一時記憶するメモリと、このメモリへの画像信号の書込クロックまたは読出クロックを発生するクロック発生手段と、前記メモリから出力された画像信号を伝送する伝送手段と、縮小指令に従いクロックを変化させることにより、前記メモリからの出力ビット数を前記読取手段の読み取りビット数よりも減少せしめる制御を行ない、前記制御に対応させて前記副走査手段の原稿移動速度を速める制御を行なう制御手段とを具備する画信号処理装置」である点で一致し、次の点で相違している。

(1) 読取走査部の走査方式として、本願発明では、主走査を固体走査により行い、副走査は原稿を副走査方向に移動させることにより行っているのに対して、引用例1に記載されたものでは、主走査を原画シリンダーを回転させることにより行い、副走査は、走査ヘッドを移動させることより行っている点(以下「相違点(1)」という。)

(2) 出力ビット数を読み取りビット数よりも減少させるのに、本願発明では、メモリへの書込クロックの周波数を減少させているのに対して、引用例1に記載されたものでは、同期パルスと、所要縮小率に応じて同期パルスへ挿入される割り込みパルスとをもって、メモリのアドレスを指定し、該割り込みパルスによって指定されるアドレスから読み出される画像信号を間引くようにしている点(以下「相違点(2)」という。)

4  次に、相違点について検討する。

(1) 相違点(1)について

画信号処理装置の読取部の走査手段として、主走査は、固体走査により行い、副走査は、原稿を移動させることにより行うことは、例えば、引用例2、引用例3に示されるように周知であるので、引用例1に記載されたものにおいて、読取部の走査手段として、主走査を原画シリンダーを回転させることにより行い、副走査は、走査ヘッドを移動させることにより行う代わりに、このような周知手段を採用することは、当業者が適宜なしうることである。

(2) 相違点(2)について

画像信号をメモリ装置へ書き込んだり、読み出したりする際のサンプリングパルスの周波数の比率を、所望倍率比に設定することにより、連続的な倍率変換が可能となるということが、引用例1に記載されており、画像を縮小する場合、書き込む際のサンプリング周波数、すなわち、書込クロックの周波数を縮小させればよいことは明らかであるので、引用例1に記載された、前記のものにおいて、読み取り画像ビット数を間引く代わりに、書込クロックの周波数を減少させて、縮小させるようにすることは、当業者が容易に想到しうることである。

さらに別の観点からいえば、画信号処理装置において、読み取り画像ビット数を間引く手段として、メモリへの書込クロックパルスの周波数を減少させることが、引用例3、引用例4に示されているように公知であるので、引用例1に記載された、前記のものにおいて、読み取り画像ビット数を間引く手段として、メモリへの書込クロックパルスの周波数を減少させるようにすることは、当業者が容易になしうることである。

(3) また、このように、公知技術及び周知技術を組み合わせて本願発明のようにしたことによって、それらの技術が本来有している以上の格別の作用効果が生じたとも認められない。

5  以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1、引用例2、引用例3及び引用例4に記載されたものから当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

四  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点1、2(1)ないし(4)は認める。同3のうち、一致点の認定のうちの「縮小指令に従いクロックを変化させることにより、前記メモリからの出力ビット数を前記読み取りビット数よりも減少せしめる制御を行なう制御手段を具備する」との部分は争い、その余は認める。同4(1)のうち、画信号処理装置の読取部の走査手段として、主走査は固体走査により行い、副走査は原稿を移動させることにより行うことが周知であることは認めるが、その余は争う。同4(2)は認める。同4(3)、同5は争う。

審決は、本願発明と引用例1に記載されたものとの一致点の認定を誤り、かつ、相違点(1)に対する判断を誤って、本願発明の進歩性を否定したものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  一致点の認定の誤り(取消事由1)

審決は、本願発明と引用例1記載の発明との一致点の認定において、両者は、「縮小指令に従いクロックを変化させることにより、前記メモリからの出力ビット数を前記読取手段の読み取りビット数よりも減少せしめる制御を行なう制御手段を具備する」点でも一致している旨認定しているが、以下述べるとおり誤りである。

(1) 引用例1記載の発明においては、メモリ装置11から出力された直後の出力ビット数(メモリ装置11とD/A変換器12との間における伝送路におけるビット数)は、読取手段(引用例1記載の発明においては、走査ヘツド6、色補正回路7及びA/D変換器9が読取手段に相当すると解される。)の読み取りビット数と同数である。

本願発明において、メモリからの画像信号は伝送手段に送られるように構成されているので、メモリからの出力ビット数とは、伝送手段に入力される画像信号のビット数を意味している。同様に、引用例1記載の発明においても、メモリ装置11からの画像信号は、審決が本願発明の伝送手段に対応すると認定している伝送路(メモリ装置11から出力された画像信号を、D/A変換器12、出力制御回路13を介して記録ヘッド15に伝送する伝送路)に送られるように構成されている。

したがって、引用例1記載の発明におけるメモリ装置11からの出力ビット数とは、前記伝送路に入力される画像信号のビット数を意味することは明らかである。そして、引用例1記載の発明における前記伝送路に入力される画像信号のビット数は、メモリ装置11から出力される直後の出力ビット数のことであるから、これが読み取りビット数と同数であることは明らかである。

そうとすると、引用例1記載の発明は、「メモリからの出力ビット数を読み取りビット数よりも減少せしめる制御」を行っていないものというべく、一致点についての審決の上記認定は誤りである。

(2) 本願発明の技術思想、技術的課題及び作用効果を参酌すれば、一致点についての審決の上記認定が誤りであることは、一層明白である。すなわち、

本願発明は、メモリへの書き込みビット数、ひいてはメモリからの出力ビット数を読み取りビット数よりも減少せしめ(主走査方向)、かつ原稿移動速度を速めて読み取りビット数そのものを減少せしめる(副走査方向)ことにより、1/Nに縮小伝送するとき、メモリより伝送手段に送られる画像信号のビット数を、等倍伝送時のそれに比較して1/N2とすることにより、伝送効率をN2倍とする技術思想を有している。この技術思想を具体的な構成として示したものが、「縮小指令に従いクロックを変化させることにより、メモリからの出力ビット数を読取手段の読み取りビット数よりも減少せしめる制御を行なう制御手段を具備する」構成である。そして、本願発明はかかる構成を有することにより、画像信号処理装置において伝送効率の向上を図るという技術的課題を達成するという作用効果を奏するものである。

これに対し、引用例1記載の発明は、原画及び記録用フィルムを同軸のシリンダに装着して回転させ、倍率を変換して複製画像を記録するカラースキャナに関するものであるが、その構成要素である原画シリンダ、記録シリンダ、A/D変換器、D/A変換器、信号伝達線等が同一の装置内に含まれるものであって、本願発明のように伝送手段を介して画像信号を遠隔地に伝送しようとするものではなく、伝送効率の向上を図るというような技術的課題を有するものではない。

したがって、引用例1から、メモリから伝送手段に送られる画像信号の出力ビット数を、1/N縮小伝送時に読取手段のそれの1/N2の数に減少せしめる制御を行い、これによってファクシミリ通信等における遠隔伝送時の伝送効率をN2倍に向上させうる構成、すなわち「縮小指令に従いクロックを変化させうることにより、メモリからの出力ビット数を読取手段の読み取りビット数よりも減少せしめる制御を行なう制御手段を具備する」構成を読み取ることは、当業者にとっても不可能である。

上記のように、引用例1記載の発明は、本来、伝送効率の向上という技術的課題を有するものではないが、あえて本願発明との対比上、引用例1から伝送効率を問題としている箇所を摘示すると、「メモリ装置11とD/A変換器12とを結ぶ伝送路」がこれに該当することは明らかである。

しかして、引用例1記載の発明においては、メモリから「メモリ装置11とD/A変換器12とを結ぶ伝送路」に出力される画像信号のビット数は、読み取りビット数と同数であり(主走査方向)、副走査方向の読み取り速度を速めて読取手段による読み取りビット数そのものを減少せしめる(副走査方向)ことにより、1/Nに縮小伝送するとき、メモリから「メモリ装置11とD/A変換器12とを結ぶ伝送路」に送られる画像信号のビット数を、等倍伝送時のそれに比較して1/Nとする結果、伝送効率は向上するもののN倍にとどまるものである。

このように、本願発明における「縮小指令に従いクロックを変化させることにより、前記メモリからの出力ビット数を前記読取手段の読み取りビット数よりも減少せしめる制御を行なう制御手段を具備する」構成は、伝送効率をN2倍としうる構成を意味しているのに対し、引用例1記載の発明は伝送効率をN倍にしかできない構成を備えているにすぎないのであるから、一致点についての審決の上記認定は誤りである。

2  相違点(1)に対する判断の誤り(取消事由2)

本願発明は相違点(1)に示される特徴ある構成、すなわち、「読取手段として固体走査式読取手段を用い、主走査を固体走査により行い、副走査を原稿を移動させることにより行う画信号処理装置において、縮小伝送を行うとき主走査方向の画像信号を電気的に間引き、副走査方向の原稿の移動速度を速めるように制御する」構成を有することにより、メモリの小型化を図れて簡易な構成とすることができ(縮小伝送時に副走査方向の原稿の移動速度を速めて機械的に読取り画信号数を減少させることによる。)、極めて簡易な構成で画像の縮小伝送を行うことができる画信号処理装置を提供するという技術的課題を達成するものであると同時に、縮小伝送時の文字の横線欠落という画質劣化を防止でき(固体走査と縮小伝送時に副走査方向に原稿移動速度を高めることとを組み合わせて読取手段の読取エリヤの増大を図ると共に、固体走査式読取手段の受光情報蓄積効果を利用することによる。)、画質劣化の防止を実現するという技術的課題を達成するものである。

これに対し、引用例1記載の発明は、シリンダー回転方式画信号処理装置において、原画シリンダーと記録シリンダーとを同一径、同一軸同一回転を可能にするという技術的課題を達成するため、原画シリンダーの回転数を一定(主走査速度一定)とし、主走査方向の画像信号を電気的に間引くようにしたものである。したがって、引用例1記載の発明には、本願発明におけるような、極めて簡易な構成で画像の縮小伝送を行うことができる画信号処理装置を提供するという技術的課題、縮小伝送時の画質劣化を防止するという技術的課題が存在しないことは明らかである。そして、引用例1記載の発明は、従来のシリンダー回転方式画信号処理装置に比較すると、主走査方向の画像信号を電気的に間引くためのメモリや電気的間引き手段が必要となる分、構成が複雑になってしまうという問題点や、縮小画像を得るとき、走査ヘッドの原稿上の読取ポイントの副走査方向の密度が粗くなり、画質劣化を招いてしまうという問題点を有している。

また、引用例2及び引用例3には、固体走査タイプの画信号処理装置が記載されているが、これら引用例記載の発明は縮小伝送と無関係のものであるから(引用例2記載のものは送受信機間において副走査密度が異なる場合のマッチング方法に関するもの)、本願発明の上記技術的課題や作用効果を有するものではない。

さらに、引用例1記載のシリンダー回転タイプの画信号処理装置と引用例2及び引用例3記載の固体走査タイプの画信号処理装置とは、別系統の技術として発達してきたものであり、前者における原稿移動は主走査を意味し、後者における原稿移動は副走査を意味するなど構造原理的にも別異のものであって、両タイプの画像処理装置間の技術置換等は通常考えられないものである。

以上のとおり、引用例1ないし3記載の発明は、本願発明における上記のような技術的課題を有するものではなく、本願発明はこれらの引用例記載の発明からは全く予測されない格別の効果を奏するものであり、また、引用例1記載の画信号処理装置と引用例2及び引用例3記載の画信号処理装置とは別系統の技術として発達してきたものであるから、引用例1記載の発明に引用例2または引用例3記載の発明を組み合わせて、相違点(1)に示される本願発明の構成に想到することは当業者にとって容易ではない。

したがって、相違点(1)に対する審決の判断は誤りである。

第三  請求の原因に対する認否及び反論

一  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

二  反論

1  取消事由1について

(1) 引用例1記載の発明において、メモリ(メモリ装置11)の出力端の直後の信号に注目すれば、その信号のビット数は読取手段の読み取りビット数と同数である。

しかし、審決において、本願発明と引用例1記載の発明とが「縮小指令に従いクロックを変化させることにより、前記メモリからの出力ビット数を前記読み取りビット数よりも減少せしめる制御を行なう制御手段を具備する」点で一致するとした認定は、メモリからの出力ビット数を制限して減少せしめ、最終的に出力ビット数を読取手段の読み取りビット数よりも少なくするということをいっているのであり、メモリ(メモリ装置11)の出力端の直後の信号が、読取手段の読み取りビット数よりも少ないと認定しているわけではない。すなわち、審決においては、メモリに入力された際にはすでに、縮小指令に従いクロックを変化させることにより画像信号のビット数を減少していることまでを一致点として認定しているわけではないのである。

そして、審決は、ビット数の減少をメモリに対してどの位置で行うかについては、相違点(2)として摘示しているのである。

このように、審決は、本願発明と引用例1記載の発明との一致点の認定は、縮小指令に従いクロックを変化させることによる画像信号のビット数の減少を、メモリに対してその前後のどの位置において行うかはさておき、ともかく最終的には行うというように、上位概念的あるいは機能的に把握し、認定したものである。

したがって、審決のした一致点の認定に誤りはない。

(2) 原告の「伝送効率」に関する主張に照らすと、原告のいう「伝送効率」は、多数の利用者が同時に利用する可能性があり、しかも遠隔地との間で行われるファクシミリ通信における伝送効率ともいうべきものである。

しかし、本願発明の対象は「画信号処理装置」であって、「ファクシミリ装置」であるとは限定されておらず(ファクシミリ装置が画信号処理装置の下位の概念として含まれることは認める。)、また、特許請求の範囲の記載から本願発明が「多数の利用者」と「遠隔地」を前提としたものであることを読み取ることも不可能である。さらに「伝送」とは、電気の分野においては、単に電気信号を送り伝えることの意味でしかなく、ましてや「遠隔地」に伝えるという意味もない。

結局、伝送効率の向上という技術的課題を持ち出し、「伝送効率」を根拠にして、本願発明と引用例1記載の発明との間における伝送手段についての構成上の対応やそれに基づく審決の一致点の認定の誤りをいう原告の主張は、「画信号処理装置」の一実施例である「ファクシミリ装置」についてのみの主張にすぎず、失当である。

本願発明における「メモリから出力された画像信号」は、原告が主張するような技術的課題に拘束されることなく解釈すべきであって、そうすれば、上記「メモリから出力された画像信号」は、必ずしもメモリの出力端から伝送先の遠距離伝送経路上の画像信号である必要はなく、受信機までの全伝達経路中の一部の伝送手段上の画像信号であれば足りるものである。

2  取消事由2について

引用例2及び引用例3記載の発明は、直接的には、送受信機間におけるマッチング方法に関するものである。しかし、マッチング方法と縮小伝送とは、情報の縮小という観点からすると、引用例4の「この発明は、画サイズの縮小・拡大だけを意図したものではなく、例えばファクシミリシステムの送信側と受信側との間に分解能の相違がありブロック当りのビット数を送受信間で変換する必要がある場合にも適用できる。」(第3頁左上欄19行ないし右上欄3行)との記載からみて、本願出願前すでにファクシミリの分野において等価の技術であると認識されていたものである。上記等価の関係は、原稿という平面的な情報媒体に対しては、主走査方向に限らず副走査方向についても同様であり、マッチングについての情報の縮小技術は、主及び副走査方向に画サイズを電気的に縮小する際に適用できることは、当業者であれば何らの困難もなく想到しうるところである。そして、引用例2記載のものにおいては、副走査線密度が異なる場合に、副走査手段の原稿移動速度を変更するという異機種対応のためのマッチングをしているが、このことは、副走査方向のマッチングのために採用する手段の一つの態様が副走査方向の原稿移動速度を変更することであることを示しているといえるから、引用例4に記載されている異機種間のマッチングと送受信間での拡大・縮小との技術的等価性に着目すれば、かかる副走査方向の原稿移動速度の変更が副走査方向の縮小伝送のための手段として適用できるということを意味しているのである。

そうすると、副走査線密度が異なる場合において原稿移動速度を速くすることは、一方では副走査方向の画情報を縮小し、そして他方では読取りエリアを増大した分だけ副走査方向の画質の劣化を防止しているという現象が生じていることになる。

したがって、本願発明は、引用例1に記載された縮小伝送を行う画信号処理装置において、引用例4に記載されている上記の異機種間のマッチングと送受信間での拡大・縮小との間の技術的等価性の関係を考慮に入れれば、引用例1における、主走査を原画シリンダーの回転により行い、副走査を走査ヘッドの移動により行うことに代えて、引用例2、引用例3に記載されている、主走査方向には原稿上の画情報を固体走査素子で固体走査する読取手段を、副走査方向には読取手段の動作時に原稿を副走査方向に移動させる副走査手段を、縮小伝送時に読み取りビット数を減少させるべく、前者においては電子的間引きにより、後者においては原稿移動速度を速めるように適用したものであって、そのように適用する程度のことは当業者にとって格別の困難性はないというべきである。そしてその際に、主走査方向の電子的間引きによる読み取りビット数の減少と、副走査方向の原稿移動速度変更による読み取りビット数の減少とを、引用例1に記載されている原画シリンダーの一回転当たりのビット数の減少と走査ヘッドの移動速度の増速による読み取りビット数の減少との対応関係をもって制御することも何ら困難であるとは考えられない。

したがって、相違点(1)に対する審決の判断に誤りない。

第四  証拠

証拠関係は本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)、三(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

そして、引用例1ないし4に審決摘示の各記載があること、審決のした相違点(1)、(2)の認定及び相違点(2)に対する判断についても、当事者間に争いがない。

二  本願発明の概要

甲第2号証(本願公告公報)によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、ファクシミリ送信機等においての信号処理により記録媒体上の記録画を縮小するための画信号処理装置に関する。従来のファクシミリ装置においては、共通機種(各種制御、変調方式が同じ)間でファクシミリ通信を行なう場合、紙サイズの大きい送信機例えばB-4から紙サイズの小さな受信機例えばA-4と通信する場合には、受信機の受信画が途中で切れる不都合がある。そこで、例えば受信機において受信した画像信号を蓄積するメモリから画像信号を読み出す際に書込時よりも速いクロックを用いてこれを読み出して縮小する方法も考えられるが、これは伝送効率上何らのメリットもない。本願はこの点に鑑みてなされたものであり、ファクシミリ送受信機間で画像の縮小を行なう場合には送信側で読み取った画像信号のビット数に対して受信記録する場合のビット数を少なくすることが可能であることに着目し、原稿上の画情報を光電変換する読取手段と、この読取手段の動作時に原稿を副走査方向に移動する副走査手段と、この読取手段から読み出された画像信号を一時記憶するメモリと、このメモリへの画像信号の書込クロックを発生するクロック発生手段と、前記メモリから出力された画像信号を伝送する伝送手段と、縮小指令に従い書込クロックの周波数を減少させ所定ビットのみを前記メモリへ書き込むことにより前記メモリへの書込ビット数を前記読取手段の読み取りビット数よりも減少せしめる制御を行なうとともに前記副走査手段の原稿移動速度を速める制御を行なう制御手段とを具備するという構成で画像の縮小伝送を行なうものである。」(本願公告公報第1欄16行ないし第2欄22行)、「本願は、上述のとおり、読み取った画信号を一旦メモリに蓄える構成を有するものであるが、かかる構成を有しながら送受信間の走査時間の差に応じ画像信号の読出時間を制御する構成をとらなかったのは、伝送すべき総ビット数を減少して伝送効率を向上させるためである。また、その際に主走査方向についてのみビットを減少させる一方で副走査方向についてはかかる処理を行なわず副走査速度を速くする構成とした理由は、画質劣化の防止のためである。すなわち、原稿上の文字は、一般に横方向の線が縦方向の線よりも細い場合が多いため、電気的にライン単位で画信号を減少させると(注「減少させる」とあるは「減少させると」の誤記と認める。)横線部分が欠落して画質の劣化が著しくなるのである。」(同公報第4欄7行ないし20行)、「(本願発明は)伝送効率の向上と画質劣化の防止とを実現しつつ極めて簡易な構成で画像の縮小伝送を行なうことが可能となる。」(同公報第6欄1行ないし3行)と記載されていることが認められる。

三  そこで、取消事由の当否について検討する。

1  取消事由1について

(1)  本願発明と引用例1記載のものについて、審決のした一致点の認定のうち、「縮小指令に従いクロックを変化させることにより、前記メモリからの出力ビット数を前記読取手段の読み取りビット数よりも減少せしめる制御を行なう制御手段を具備する」との部分を除くその余の認定部分については、当事者間に争いがない。

(2)  本願発明の特許請求の範囲には、縮小伝送の制御手段につき、「縮小指令に従い書込クロックの周波数を減少させ所定ビットのみを前記メモリへ書き込むことにより前記メモリへの書込ビット数を前記読取手段の読み取りビット数よりも減少せしめる制御を行ない前記制御に対応させて前記副走査手段の原稿移動速度を速める制御を行なう制御手段」と記載されているとおり、本願発明においては、縮小伝送時、メモリへの書き込みは、書込クロックの周波数を減少させ、書込ビット数を読取手段からの読み取りビット数よりも減少させると共に、副走査手段の原稿移動速度を速めるように制御しているものである。上記のとおり、本願発明は、主走査方向について、メモリへの書込ビット数を読み取りビット数よりも減少させているから、メモリからの出力ビット数も当然読み取りビット数よりも減少している。

一方、前記のとおり、引用例1に審決摘示の技術事項が記載されていることは当事者間に争いがないが、縮小伝送の制御手段についてみると、引用例1(甲第4号証)には、「次に、本発明に係る方法により、倍率を変えて、例えば複製画像を縮小して記録する場合、副走査方向には、走査ヘッド(6)と記録ヘッド(15)の送り速度の比を、所定の縮小倍率に対応すべく、例えば、電動機(5)の回転速度を倍率設定装置(16)で制御するとともに、主走査方向には、以下の如き制御を行なう。・・・メモリ装置(11)の書込モードにおいては、・・・色補正回路(8)からの補正済みアナログ画像信号(e2)を、A/D変換器(9)で同期信号(g1)に基きディジタル画像信号(e3)に変換し、メモリ装置に記憶する。・・・読み出しモードに際して、同期信号(g1)のパルス間へ、倍率に応じた所要のパルス数毎に、倍率設定装置(16)から、割込みパルス(g3)が挿入され、アドレス信号発生器(10)は、書き込みモードとは異るアドレス信号(g2')を出力する。この割込みパルス(g3)は、同期信号(g1)の発生順に指定されるアドレス番号を、その割込みパルスが挿入される毎に、1つずつ進むようにしたアドレス信号(g2')を作り、結果的に、メモリ装置(11)から読み出される再生ディジタル画像信号(e4)を、時間軸に係る主走査方向へ圧縮する。この時間軸に圧縮された再生ディジタル画像信号(e4)は、D/A変換器に送られ、そのD/A変換器(12)においては、割り込みパルス(g3)でアドレスが指定されて読み出された信号は、同期信号(g1)と一致しないため、アナログ変換されず、その結果、割り込みパルス(g3)によって読み出された部分が間引かれ、縮小された再生アナログ画像信号(e5)が得られる。」(第3頁右下欄4行ないし第4頁右上欄11行)と記載されていることが認められる。この記載によれば、引用例1記載の発明においては、主走査方向については、ディジタル変換された画像信号(e3)をメモリ装置(11)に入力し、その画像信号(e3)を間引くことなく、メモリ装置(11)から画像信号(e4)として読み出すように構成されており、ただメモリ装置(11)への画像信号(e3)の入力に要する時間に比較して、メモリ装置からの画像信号(e4)の出力に要する時間を短縮しているものであり、メモリ装置(11)とD/A変換器(12)との間の伝送路には、メモリ装置(11)に入力された画像信号(e3)と同数の、メモリ装置(11)から出力された画像信号(e4)が送られることになっていて、メモリ装置(11)から出力された画像信号(e4)を、割り込みパルス(g3)によって読み出された部分が間引かれ、縮小された再生アナログ画像信号(e5)を得ているものであることが認められる(なお、引用例1記載の発明において、メモリ(メモリ装置11)の出力端の直後の信号に注目すれば、その信号のビット数が読取手段の読み取りビット数と同数であることは、被告においても認めているところである。)。

ところで、審決は、本願発明と引用例1記載のものとの一致点の認定をするについて、主走査方向について、「メモリからの出力ビット数を読取手段の読み取りビット数よりも減少せしめる制御を行なう」点で一致していると認定しているのであるが、相違点(2)として、「出力ビット数を読み取りビット数よりも減少させるのに、本願発明では、メモリへの書込クロックの周波数を減少させているのに対して、引用例1に記載されたものでは、同期パルスと、所要縮小率に応じて同期パルスへ挿入される割り込みパルスとをもって、メモリへのアドレスを指定し、該割り込みパルスによって指定されるアドレスから読み出される画像信号を間引くようにしている点」を挙示していること、出力ビット数を読み取りビット数よりも減少させるのに、同期パルスと割り込みパルスによってメモリのアドレスを指定するというのであれば、メモリの出力端の直後の信号が読取手段の読み取りビット数よりも減少していないことは明らかであることからすると、審決は、上記一致点の認定において、メモリ(メモリ装置11)の出力端の直後の信号が読取手段の読み取りビット数よりも少ないと認定しているとは認められず、メモリからの出力ビット数を制御して減少せしめ、最終的に出力ビット数を読取手段の読み取りビット数よりも少なくするという点で一致していると認定しているものと認めるのが相当である。

そして、引用例1記載のものにおいて、メモリ装置11からの出力ビット数を制御して減少せしめ、最終的に出力ビット数を読取手段の読み取りビット数よりも少なくしていることは、引用例1の前記記載から明らかである。

したがって、本願発明と引用例1記載のものとは、「縮小指令に従いクロックを変化させることにより、前記メモリからの出力ビット数よりも減少せしめる制御を行なう制御手段を具備する」点でも一致しているとした審決の認定に誤りはないものというべきである。

(3)  原告は、引用例1記載の発明における伝送路に入力される画像信号のビット数は、メモリ装置11から出力される直後の出力ビット数のことであることを前提とし、これが読み取りビット数と同数であることは明らかであるとして、審決の一致点の認定の誤りを主張するが、審決が、「メモリからの出力ビット数を読取手段の読み取りビット数よりも減少せしめる制御を行っている」点で一致していると認定したのは、前記のとおり、メモリ(メモリ装置11)からの出力ビット数を制御して減少せしめ、最終的にそのビット数を読取手段の読み取りビット数よりも少なくしているという点で一致しているということであって、メモリ(メモリ装置11)から出力される直後の時点をとらえて、出力ビット数が読取手段の読み取りビット数よりも少ない点が一致していると認定しているわけではないから、原告の上記主張は、審決の認定の趣旨を正解しないことに基づくものであって失当である。

また原告は、本願発明の技術思想、技術的課題及び作用効果を参酌すれば、一致点についての審決の上記認定が誤りであることは一層明白であるとして縷々主張する(請求の原因四1(2))が、この主張は要するに、本願発明の対象が遠隔地との伝送に用いられるファクシミリ装置であることを前提とした上、縮小伝送時における伝送効率の向上という技術的課題を持ち出し、それに基づいて、本願発明と引用例1記載のものとの構成上の相違をいうものである。

しかし、本願の特許請求の範囲の記載から明らかなように、本願発明は「画信号処理装置」に係るものであって、ファクシミリ装置に特定されるものとは認められないし、特許請求の範囲の記載から、本願発明の画信号処理装置が遠隔地との伝送に用いられるものに限定されるものと解することもできない。一般に、ファクシミリ通信は、伝送路を他者と共用したり、遠隔地との間で行われるから、伝送効率の向上は重要な技術的課題ということができるが、上記のとおり、本願発明の「画信号処理装置」はファクシミリ装置に限定されるものではなく、したがって、伝送効率を特に問題としないものも含まれるわけであるから、伝送効率の点を取り上げて、本願発明と引用例1記載のものとの構成上の相違をいう原告の主張は失当である。

(4)  以上のとおりであって、取消事由1は理由がない。

2  取消事由2について

(1)  引用例2及び引用例3には、画信号処理装置の読り取り走査部の走査方式として、主走査は固体走査により行い、副走査は原稿を移動させることにより行うことが記載されており、この技術が周知であることは、当事者間に争いがない。

しかして、引用例1記載の発明も画信号処理装置に係るものであるから、画信号処理装置の読取部の走査手段として、上記周知の走査手段を採用する程度のことは当業者であれば適宜なしうることと認めるのが相当である。

(2)  原告は、本願発明は、「読取手段として固体走査式読取手段を用い、主走査を固体走査により行い、副走査を原稿を移動させることにより行う画信号処理装置において、縮小伝送を行うとき主走査方向の画像信号を電気的に間引き、副走査方向の原稿の移動速度を速めるように制御する」構成を有することにより、メモリの小型化を図れて簡易な構成とすることができ(縮小伝送時に副走査方向の原稿の移動速度を速めて機械的に読取り画信号数を減少させることによる。)、極めて簡易な構成で画像の縮小伝送を行うことができる画信号処理装置を提供するという技術的課題を達成するものであると同時に、縮小伝送時の文字の横線欠落という画質劣化を防止することができ(固体走査と縮小伝送時に副走査方向に原稿移動速度を高めることとを組み合わせて読取手段の読取エリヤの増大を図ると共に、固体走査式読取手段の受光情報蓄積効果を利用することによる。)、画質劣化の防止を実現するという技術的課題を達成するものであるのに対し、引用例1記載の発明には、本願発明における上記のような技術的課題は存在せず、引用例1記載の発明は、従来のシリンダー回転方式画信号処理装置に比較すると、主走査方向の画像信号を電気的に間引くためのメモリや電気的間引き手段が必要となる分、構成が複雑になってしまうという問題点や、縮小画像を得るとき、走査ヘッドの原稿上の読取ポイントの副走査方向の密度が粗くなり、画質劣化を招いてしまうという問題点を有していること、また、引用例2及び引用例3記載の発明は縮小伝送と無関係のものであるから(引用例2記載のものは送受信機間において副走査密度が異なる場合のマッチング方法に関するもの)、本願発明の上記技術的課題や作用効果を有するものではないこと、引用例1記載のシリンダー回転タイプの画信号処理装置と引用例2及び引用例3記載の固体走査タイプの画信号処理装置とは、別系統の技術として発達してきたものであり、前者における原稿移動は主走査を意味し、後者における原稿移動は副走査を意味するなど構造原理的にも別異のものであって、両タイプの画像処理装置問の技術置換等は通常考えられないことなどを理由として、引用例1記載の発明に引用例2または引用例3記載の発明を組み合わせて、相違点(1)に示される本願発明の構成に想到することは当業者にとって容易ではない旨主張する(請求の原因四2)。

前記二項に認定のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、「(本願発明は)伝送効率の向上と画質劣化の防止とを実現しつつ極めて簡易な構成で画像の縮小伝送を行なうことが可能となる。」(本願公告公報第6欄1行ないし3行)と記載されているが、「簡易な構成」という点についてみると、本願明細書によっても、本願発明のどの構成がどのように簡易になっているのかを明確に把握することができない。もっとも、原告の主張によれば、縮小伝送時に副走査方向の原稿の移動速度を速めて機械的に読取り信号を減少させることによってメモリの小型化が図られていることをもって、「簡易な構成」といっているもののようであるが、縮小伝送時には縮小に比例してメモリ容量を少なくすることはできるものの、縮小指令に基づいて縮小するものである以上、縮小指令がない場合は等倍伝送を行うことになり、等倍伝送時にはそれに対応できるだけのメモリ容量が必要であるから、全体としてはメモリの小型化が図れるとは考えられず、原告の主張するような理由によって簡易な構成が得られるということはできない。結局、本願明細書に記載されている「簡易な構成」というのは、格別特別の意味を有するものとして用いられているとは認め難く、この種の分野において一般的な技術的課題として通常求められる程度の意味合いのものとして用いられているにすぎず、効果としても格別のものと認めることはできない。

しかして、「簡易な構成」についての上記のような意味合いでの技術的課題は、引用例1ないし引用例3記載の発明においても当然要請されていることであるから、かかる技術的課題の欠如を理由として、引用例1記載の発明と引用例2、引用例3記載の周知技術との組み合わせが容易に想到しうることではないとするのは相当でない。

次に、「画質の劣化の防止」という点についてであるが本願明細書の発明の詳細な説明には、上記記載のほか、

「また、その際に主走査方向についてのみビットを減少させる一方で副走査方向についてはかかる処理を行なわず副走査速度を速くする構成とした理由は、画質劣化の防止のためである。すなわち、原稿上の文字は、一般に横方向の線が縦方向の線よりも細い場合が多いため、電気的にライン単位で画信号を減少させると横線部分が欠落して画質の劣化が著しくなるのである。」(本願公告公報第4欄12行ないし20行)と記載されているところ、原告は、「画質の劣化の防止」という効果は固体走査と縮小伝送時に副走査方向に原稿移動速度を高めることとを組み合わせて読取手段の読取エリヤの増大を図ると共に、固体走査式読取手段の受光情報蓄積効果を利用することによるものである旨主張する。

しかし、引用例2及び引用例3記載の固体走査式読取手段も受光情報の蓄積効果を利用するものであり、また、引用例2(甲第5号証)には、「またここでは副走査線密度の異なる場合について述べなかったが、1ラインメモリへの書き込み動作と走査部の原稿送り速度をステップモータ等により種々行えるようにすれば副走査線密度の異なる場合の通信も可能になる。」(第3頁右上欄3行ないし8行)と、縮小伝送時ではないものの、副走査密度の異なる場合の通信において、副走査密度を変えるために走査部の原稿移動速度を速めることが記載されており、その場合には、受光情報の蓄積効果により、例えば、原稿の文字が横方向の線が縦方向の線より細い場合においても、画質の劣化が防止されることになる。したがって、画質の劣化の防止という点からみても、引用例1記載の発明と引用例2、引用例3記載の周知技術とを組み合わせることが何ら阻害されるものとは認め難いし、そのような構成を採用することによって、画質の劣化の防止が図られるわけであるから、本願発明のこの点についての効果も予測されるものであって格別のものということはできない。

原告は、引用例1記載の発明の従来技術との比較や縮小のための具体的手段についても問題にしているが、審決は、引用例1記載の発明については、縮小指令に従って主走査方向のみならず副走査方向にも縮小しており、副走査方向には原稿の相対移動速度を速める制御が採用されているという限度で引用しているにすぎず、副走査方向の縮小化手段として引用例1に記載されている具体的な手段までも引用しているわけではないし、引用例1記載の発明に原告主張のような問題点があるとしても、そのことが、引用例1記載の発明と引用例2、引用例3記載の周知技術を組み合わせることを阻害するものでないことはもとより明らかである。

次に、引用例2及び引用例3記載の発明は縮小伝送とは無関係のものであるという点についてであるが、これらの発明が直接的には、マッチング方法に関するものであることは被告も認めるところである。しかし、審決は、「画信号処理装置の読取部の読取手段として、主走査は、固体走査により行い、副走査は、原稿を移動させることにより行うことは、例えば、引用例2、引用例3に示されるように周知である」といっているのであって、引用例2、引用例3については、画信号処理装置の読取部の読取手段として、上記事項が周知であることを示すために引用しているにすぎず、縮小伝送についての技術までが開示されているものとして引用されているわけではない。そして、引用例4(甲第7号証)には、画情報システムとして、例えばB4判からA4判へというようなファクシミリ縮小伝送の場合に、主走査ライン1本ないし複数本を1ブロックとして画情報データを処理するシステムにおいて、画情報データをブロック(ライン)単位で取り込む入力部と、取り込まれた画情報データを出力部との間で、画情報ビット数を電気的に変更させて、画サイズを電気的に縮小・拡大したものが開示されているが(第1頁右下欄2行ないし末行)、引用例4中の「この発明は、画サイズの縮小・拡大だけを意図したものではなく、例えばファクシミリシステムの送信側と受信側との間に分解能の相違がありブロック当りのビット数を送受信間で変換する必要がある場合にも適用できる。」(第3頁左上欄19行ないし右上欄3行)との記載に照らすと、本願出願当時、画情報処理システム(ファクシミリシステム)の分野においては、マッチング方法と縮小伝送とは、情報の縮小という点では等価の技術であると認識されていたものと認められ、引用例2、引用例3記載の技術を縮小伝送に用いることを想到するについて格別困難な事情が存したものとは認め難い。

最後に、引用例1記載のシリンダー回転タイプの画信号処理装置と引用例2及び引用例3記載の固体走査タイプの画信号処理装置とは、別系統の技術として発達してきたものであるとの点についてであるが、両者はいずれも画信号処理装置であって、同種の技術分野に属するものであり、必ずしも別系統の技術とはいえないし、また、原稿移動についてみると、前者における原稿移動は主走査を意味し、後者における原稿移動は副走査を意味するなどの違いはあるものの、読取り形式自体のレベルとしては、主走査と副走査を含めた読取部の走査手段として一つのまとまりのある技術として捉えることができるものであるから、両者の読取部の走査手段の置換を考えることが格別困難なこととは認められない。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

(3)  以上のとおりであって、相違点(1)に対する審決の判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。

四  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙図面1

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

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